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「我慢を強いる勉強をなくしたい」ゲームと手品で科学を学べるオンライン講座の仕掛け人・シンディーが、マジックと教育を組み合わせた理由【アクトブーン代表・シンディーInterview】

更新日:2023年8月23日



「ゲームと手品で科学を学べるオンライン講座がある」。

という気になる噂を聞きつけ、調べてみたところ……発見。その名も、アクトブーンの「エンタメ型科学オンラインスクール」。手品で科学って、どういうこと!?

ちょっと授業を覗いてみると……授業の冒頭から、いきなりマジックです。


講師のシンディーがスカーフを取り出し、「これ、何かわかる人?」と質問すると、「シンディーのパンツ!」という生徒の小ボケが返ってきたかと思ったら、スカーフが一瞬でステッキに変身!

おぉ、まさにマジック!


一瞬にして釘付けになりました。しかしこれはマジック講座ではなく、マジックショーでもありません。れっきとした科学の講座 この日の授業のテーマは、「元素と宝石」です。


「今月は、金とダイヤモンドを作ろうというとんでもない試みです。ではまず、金とダイヤモンドを作る奇跡のマジック!」とシンディー。

もしや、またマジック!?

手に持った紙をボッと燃やして金属の箱に入れ、蓋を締めて「3・2・1」……蓋を開けたら、中には金とダイヤモンドがざっくざく!(もちろんおもちゃです笑)

このように、金属と元素に関するクイズも交えながら、シンディーの軽快なトークとともに授業が進んでいきます。

マジックを駆使しながら科学の話をどんどん深めていく授業を展開するこのシンディーなる人物、一体何者!?

気になるシンディーに話を聞いてみました。


* * * * * *


きっかけは「父親」と「Mr.マリック」 東工大でマジックサークルを立ち上げる


――マジックを駆使した科学の授業、とても面白いですね! いつ、どういうきっかけでマジックをやるようになったのでしょうか?


マジックと出会った最初のきっかけが何だったか考えてみると、うちの父親が保育園で耳からコインを取り出すっていうのをやってたんですよ。


――出会いは保育園時代ですか!


手に隠して出したように見せているだけなんですけど、すごい盛り上がったんです。僕の友だちとかもみんな「シンディーのパパすげえ!」ってなって。


――人気者になった?


いや、僕はならなかったんですけど(笑)父親が人気者になってました。


――シンディーはならなかったんですね(笑)


それから、中学生くらいの頃にMr.マリックさんが番組で種明かしをしているのを観て、それを練習していたらあれよあれよという間にドはまりした、という感じですね


――きっかけはパパさんとマリックさんだったんですね! それからもずっとマジックを続けていたんですか?


大学は東工大(東京工業大学)に進んだんですが、東工大にはマジックサークルがなかったんですよ。だから、自分たちで立ち上げたんです。


――え、すごい。一人でサークルを立ち上げたんですか?


いえ、入学して最初のオリエンテーションのとき、僕の隣に座ってた子が自己紹介で口からカード出したんですよ。


――なんと! その場にいたかった!(笑)


それで、「お前もマジックやってんの!」みたいな感じに意気投合して、一緒にマジックサークルを立ち上げたんですよ、二人で。


――そんなマジック好きが隣同士に並ぶなんて、考えられないくらいの奇跡ですね。


確かにそうかもしれません。


――それで、ご友人とマジックサークルを立ち上げて本格的にマジックを始めた、と。


マジックには、大きく「テーブルマジック」と「ステージマジック」があるんです。 今まで「テーブルマジック」はやってたんですけど「ステージマジック」やったことがなかったんで、大学でやるんだったら大きい会場借りてステージで大きくやりたいと思ってたんです。 でも自分たちだけでいきなりそれは難しいから、東大の奇術愛好会に入れてもらって、色々教わりました。


――修業した?


そうですね、僕が今やっているマジックショーのやり方や演出は、全部東大奇術愛好会から来てるかなと思ってます。 マジックショーでは音楽をかけて喋らないので、表情とか出し方とか振る舞いとかも全て、総合的にそこで培われたかな、と、

* * * * * *

高校では成績ビリ!?  図書館で出会った一冊の本が人生を変えた


シンディーのマジックのルーツがわかったところで、一旦アクトブーンの授業の話に戻りましょう。この授業を見学していてとても印象的だったのは、講師であるシンディーが実に楽しそうに科学について語ることです。

この人、本当に科学が好きなんだろうなぁ!と、見ている側に伝わってきて、その「わくわく感」に思わず引き込まれてしまう。だから、クラスに不思議な一体感が生まれているんです。

マジックにハマった中学生のシンディー少年が科学の道を志すようになったのは、どうしてなのでしょうか?

次はそんなお話です。

――マジックから科学と、「ふり幅」が大きいように思うのですが、どういうきっかけだったのでしょうか?


中学生の頃からマジシャンになろうと思っていて、高校生になってからも海外からマジックのDVDを取り寄せて練習したり、母親が話をつけてくれた老人ホームでマジックショーをしたり、ゆるりとマジックを続けている状態でした。


――高校生マジシャンのマジックショー、いいですね!


そう。マジックはずっと続けていたんですが、学校の勉強は全然やってなかったんです。1年生のときは成績がビリだったんですよ。


――え、それはヤバい(笑)


ですよね(笑)。でも本を読むのは好きだったんです。夏休みあたりかな? 図書館で、ある科学の本に出合ったんです。


――なんという本ですか?


『ご冗談でしょう、ファインマンさん』という本です。



――ファインマンさん!


そうそう。ファインマンさんってアメリカの物理学者でノーベル賞を取った人なんですけど、その人の人生がめちゃめちゃ面白いんですよ。 この本を読んで「科学いいな」と思って、漠然と「科学系の仕事やりたいな」って思うようになり、勉強を始めたんです。


――まさに、人生を変えた一冊ですね! それで東工大に進まれたんですね。


東工大に入って物理をやりたかったんですけど……羽目を外しちゃって成績が足りず、物理専攻に行けなかったんです。


――え! 何したんですか!?


手品ばっかやっちゃったんですよ。


――あーそうでした(笑)。自分たちで立ち上げた東工大のマジックサークルもあり、東大の奇術愛好会での修行もありで、大忙しですもんね。


そうなんです。だから物理専攻には行けず、化学専攻になったんです。でも化学専攻で「水分子がすごい低温でどう動くか」みたいな研究を大学院までやっていたので、結構物理っぽかったかな。


――まさにファイマンさんのような科学の研究者への道ですね!


それが、大学院で実験をやりすぎて、実験に飽きてしまいまして……。コンピュータで完結する科学の世界が良いなと思い、構造計画研究所という会社に就職しました。


――マジシャンでもない、物理学者でもない、また新しい道に進んだんですね。


そう。新卒で入った構造計画研究所で、「数理最適化」の世界に入るんです。


――数理最適化!


物流周りの数理最適化をいっぱいやっていて、物流がめっちゃ好きになってたんですよ。


――割と何でも好きになるタイプなんですね。


そうなんです。やっていることが大好きになっちゃうタイプなんです(笑)。それで「物流変えたいな」ってなって。


――考えることが大きい!


でもその時に勤めてた会社はコンサルなんで、あくまでもメーカーから依頼を受けてコンサルティングするという立場だったから、物流を変えるならメーカー側に行かないと、と思ってユニクロ(株式会社FastRetailing)に転職したんですよ


――なんか、話がマジックからも科学からもどんどん逸れていってますが大丈夫でしょうか……?


大丈夫です、もうすぐ戻るので(笑)。ユニクロの1年半では自動倉庫や海外物流の数理最適化を行ってきました。朝6:00出社もザラにあり、疲労困憊する中で、ふと「マジックやんなくていいのかな、俺」と回帰したんですよね。


――ここでマジックに戻ってくるんですね!

* * * * * *

「マジックと教育を組み合わせる」 同級生の誘いでタンキュークエストにジョイン!


アクトブーンの講座のもう一つの特徴は、なんと、講座の途中で「ゲームで遊ぶ時間」があること。それも、科学を題材にアクトブーンが開発したオリジナルwebゲームなんです。

元素がテーマだったこの日のゲームは、酸素原子や炭素原子、水素原子などのキャラクターを「ぷよぷよ」のようにくっつけて、水や二酸化炭素などの分子を作っていくゲーム。


これがもう本当に、面白い! 子どもたちの心をつかみまくりながら科学について理解を深めるだけでなく、「科学って面白いかも」と思わせる素晴らしいゲームなんです。

マジシャンと科学者を志したシンディーがアクトブーンでこんなワクワクさせる講座を展開するに至るには、何か出会いがあったのかもしれません。続いては、そんなお話です。

――「マジックを」という思いを持ったシンディは、マジック界に飛び込むのでしょうか?


それが、そうでもなくて。これまで色んなキャリアを積んできたんだから、このままマジックだけの道に行くのはちょっと違うんじゃないかという思いもあったんです。


――ほう?


正直、マジック単体ってもう芸術としてはオワコンじゃないかなと思ってて……。不思議を作り出すのがマジックですが、今の人がマジックを見ても、超常現象だと思わないじゃないですか。


――いきなり辛辣な意見が! でも確かに、マジックで物を消したり出したりって、今は映像で誰でも簡単に作れるから、消えたり現れたりしたときの驚きが過去と全く違ってきちゃってるということですよね。


そうなんです。消してもみんな当たり前になってたり、出しても服の袖から出したんだろうみたいなのもあるし、それにYouTubeを見たら大体のタネは出てるし。


――マジシャンにとって受難の時代ですね……。


あと、僕がマジック単体でやるには、正直ガチでやってる人たちにはもう勝てないというのもあったんです。だから、マジックと何かを組み合わせなきゃっていう思いがあって……。


――組み合わせ! そこで、科学の登場でしょうか!?


そうですね、組み合わせるとしたら「教育」かなと思ったんです。 マジック芸能を復興させたいっていう思いと、教育をより面白くさせるためにマジックを使いたいという両軸がありました。 教育の中でも僕が一番好きなのは自然科学だから、子どもたちに科学を楽しく伝えるための手段としてマジックを使おうと考えました。


――アクトブーンにつながってきますね! でもいきなり教育の世界に飛び込むのは難しそう……。


そう考えていたときに、探究型通信教育の「タンキュークエスト」を展開していたtanQ株式会社から「一緒にやらない?」と声をかけてもらったんです。


――おお! 「タンキュークエスト」って、原子のカードバトルゲーム「アトモン」とかの教育プログラムですよね! ほんとだ、シンディがいる!! シンディのビジョンにぴったりですね! どういうきっかけで声がかかったんでしょうか?


創業メンバーの一人であるチャーリーが、小学校の同級生だったんです。


――そんなご縁が!


僕は、教室もやりつつWeb周りの開発もできるからアプリを作ったり、カードゲームを作ったりと、色々やってました。


――それが、いつぐらいですか?


2019年10月でした。


――ということは、その後すぐにコロナがやってきますね!


そうそう。コロナになったからtanQもオンライン授業に力を入れるようになって。やっているうちに、自分の中でオンライン授業をもっと面白くしたいっていうパフォーマー的な思いが生まれてきたんです。


――tanQでの経験がアクトブーンにつながっていくんですね。


今のアクトブーンの講座の形は、tanQでやらせてもらってる中で学んだことが活かされてます。例えばさっき見てもらったゲームとかもそうですね。


――そうなんですね! あのゲームは最高です。


僕が最初に「科学を最高のエンタメとして届けたい」と考えていたときは、いわゆる「ショー形式」でした。僕がパフォーマーとして子どもたちに提供する、という形をイメージしてたんです。


――子どもたちはそれ見る、という形ですね。


けど、tanQでアトモンとかのカードゲームをやっている子どもたちの姿を見ていたら、子どもにとって一番楽しいのって、子ども自身が集中して取り掛かっている時間なんだと思ったんです。


――見るだけじゃなく、自分も能動的に取り組む時間も大切ということですね。


はい。だから、最高に楽しいエンタメショーって考えた時に、ある程度僕もやるし子ども自身も集中する時間って必要だなと思いました。それが今のアクトブーンの形ですね。


――そうして生まれたのが、今日見せていただいた講座なんですね! マジックあり、トークあり、クイズあり、ゲームありで、まさに最高に楽しいエンターテイメントショーでした!


ARも使って最高にエンタメ化した授業を作るために、今も試行錯誤しながらアップデートしています。ぜひ一度見てもらいたい!

* * * * * *

子どもたちが我慢しなくても学べる教育を作る! 夢は「マジックと科学のテーマパーク」



シンディが様々なキャリアを経てたどり着いた、アクトブーンの「エンタメ型科学オンラインスクール」。




週に1回の講座は好評を博し、たくさんの子どもたちが毎週わくわくする科学体験の時間となっています。

最後に、シンディーのこれからについて、話を聞いてみました。

――アクトブーンの「エンタメ型科学オンラインスクール」のテーマは、月ごとに変わるんですね。


毎月取り扱うテーマはもう決めていて、ホームページでも公開しています。でも、ゲーム開発にめっちゃ苦労してます(笑)。


――そうなんですね! ゲームを作るのってやっぱり難しいんでしょうか?


ゲーム自体は単純なんです。そこに科学の要素を取り込むのがね。 例えば5月は電気なんですけど、これがまた難しい。科学の概念をシンプル化しないとゲームとして面白くならないんです。


――確かに、複雑だとゲームにならなさそうですね。


例えば、電気のゲームは電気玉(電子)を捕まえた上でそれを発射して家電を発動させるんですけど……


――これを聞いただけで面白そう(笑)


ありがとうございます(笑)。厳密には電流の強さは抵抗値で決まったりするので、自分で電流の強さを決めて流すことはできないわけですよ。 それをゲームでやっちゃうと、面白いけど科学を理解するにあたって阻害要因になっているんじゃないかとか思ったり。


――なるほど……。


そこのバランスが一番難しいところですね。気をつけながらやっています。


――しっかり考えられているんですね! 毎月のオリジナルゲームも本当に楽しみです。講座は平日と土曜日ですが、火曜日は無いんですね。




はい。実は火曜日は新橋あたりで流しでマジックをやってるんです。


――え! すごい!


単純にマジックだけをしたいってのもあるんです。マジックがうまくありたいっていう思いがあるから、人前でマジックをする機会はずっと大事にしていたんです。


――じゃあ、火曜日に新橋に行くとシンディに会えるかもしれない?


ですね。ぜひ来てください(笑)。あとは、キッズマジックショーですね。科学の要素を取り入れたキッズマジックショーを今までもやっていたし、これからもやりたい。



――科学のキッズマジックショーがシンディの原点なんですね。


教育に携わっていて思うことは、今の教育は、子どもたちに我慢をさせすぎている気がしているんです。将来のために我慢しなさい、と。でもこれって教育者の怠惰だと思っているんです。


――我慢しなくても教育はできる、と!


そうそう。「同時に成し遂げろよ!」って思ってます。 しかも将来どうなるかなんて分かんないですし。 だから、子ども向けに我慢しなくても学べるものを真剣に作ってあげたっていいじゃん、というのが、今の僕の考えです。


――この先は、どんなことをやりたいと考えていますか?


将来的にやりたいのは、テーマパークなんです。


――マジックと科学のテーマパーク!? 楽しそう!


リアルな場で、いろんな科学のゾーンに分かれてて、ゲームとかアトラクションとか。もう構想はあるので、やろうと思えばいつでもできます!


――考えただけで面白そうですね! 独自の子どものあそび場を作りたい商業施設さん、ぜひいかがでしょうか!?


ですね、手を挙げていただけたらすぐにプレゼンに行きます(笑)

* * * * * *

大きな夢を語りながらも、今一番楽しいのは「毎月末に子どもたち一人一人に送るフィードバックを考えること」というシンディー。授業中、それぞれの子たちがどんな発言をしたか、どんな様子だったか、全てメモを取っているんだとか。


「一人一人をしっかり見てあげるっていう所を重要視したい。子どもたちが面白く成長していくための手段として自分がいる」と話すシンディーが贈るアクトブーンの「エンタメ型科学オンラインスクール」は、科学に対する知識だけに留まらず、子どもたちが生きていく上で大切な「ワクワクする心」を育ててくれているようです。


(了)


〜サイエンスマジシャン:シンディー〜 <profile> 東京工業大学大学院 化学専攻卒業。科学オンラインスクールActBoon代表で活躍中の”マジシャン科学講師”。株式会社構造計画研究所・株式会社ファーストリテイリングにて数理最適化エンジニア(物流や都市計画の最適化でキャリアを積む)をしていた異色の経歴を持つ”バリバリ理系”人間。 現在は、科学オンラインスクールActBoon代表、トヨタ自動車株式会社AIリサーチャーとして活動中。


構成・文:洪愛舜(編集プロダクションecon/教育ライター)

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